行ってみたかった明建神社での薪能『くるす桜』に、今年はやっと行くことができた。
神社の舞台での奉納能は、場所・空間という最高のシチュエーション。
加えて神社ゆかりの人物が主人公とくれば、趣も倍増。
目に見えない何かがそこにいるというような、幻想的な一夜を過ごさせていただいた。
能『くるす桜』は、明建神社(岐阜県郡上市大和町)の例祭日8月7日に、薪能として毎年奉納されている復曲能。
復曲改作に関わられたのは、伝書の会でお教えていただいている能楽師シテ方味方健先生。
昭和63年からはじまり、今年で26回目となる。
今年の演目は、連歌奉納、地元の小学生による連吟『くるす桜』、能『田村』、火入之式、狂言『成上り』、仕舞に続いて能『くるす桜』。

能『くるす桜』は、中世にこの地を治めた東氏の9代目東常縁(とうのつねより)が、妙見宮の桜並木にさしかかった旅の僧の夢に現れるお話。
神仏分離で明建神社と名前を変えたが、もとは妙見宮で、東氏が下総国から郡上へ入部した際に、千葉氏の氏神である妙見菩薩を勧請した(東氏は、千葉氏の一族)。
「くるす桜」とは、妙見宮の桜並木。
東常縁は、連歌師の宗祇に古今伝授を行、能の中でも宗祇との連歌のやりとりが盛り込まれている。
間狂言が庄屋と連歌師のやりとりで、面白かった。
『未刊謡曲集 二十二』に、京都下村家旧蔵本(天理図書館蔵)の「栗栖桜」、『未刊謡曲集 十二』に、伊達家旧蔵本(宮城県立図書館蔵)の「常縁」が翻刻されている。
『未刊謡曲集 続四』(古典文庫)には、味方健先生が復曲改作上演された詞章と、その底本となった村瀬本が翻刻されている。特に解題に、改作復曲にあたっての味方先生の要点メモも載っているので、ぜひ読んでいただきたい。

神社の隣は、古今伝授の里フィールドミュージアムとして地域の活動拠点となっている。
施設の中の東氏記念館には、東常縁と東氏史料、古文書類、東氏館跡の出土品、篠脇城の模型などが展示されている。
神社の対岸は、東氏の篠脇山城で、その麓は東氏館跡庭園として、発掘された庭園遺構が整備復元されている。
篠脇城は、中世の山城で、城郭を囲む放射線状の竪堀が面白かった(恐がりのワタシでも、行きは20分弱、帰りは10分くらい。急斜面なので、運動靴は必要)。
薪能の前に、東氏記念館を見学し、篠脇城へ登ってみると、さらに楽しめるかも。

参考文献:『薪能くるす桜 20周年記念誌』(薪能くるす桜実行委員会)、『古今伝授の里紀行』(古今伝授の里フィールドミュージアム)
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